犬はよく知っている人に呼ばれると、よろこんで手元へ来るものです。しかし中には近くまでは来るが手元まで来ない犬もあります。このような犬は呼びがきかないといって悪癖の一つに数えられ、嫌われるものです。手元へ来ないのは、叱られる、叩かれる、自分の持ち物を取りあげられる、括られて自由を奪われるなどと色々な理由があり、犬がそれを予知してるのでしょう。遊んでいるときなら気長に待っていれば呼び寄せることも可能ですが、急ぐ場合はそんな悠長なこともいっていられません。若い頃私は猟仲間と賭けをしたことを思い出します。友人のビーグルは近郷近在で有名な猟犬で一度嗅ぎ当てた兎は必ず射手に獲らせるというものでした。ただ一つの欠点は山で放したら絶対に呼びがきかないという曰く付きのもので、夜おそくなってから勝手に帰って、犬舎で寝ているのです。友人はある日、山で「捕えたら進呈します」というので一策を考えついて捕えたことがあります。猟犬が私の横を通ったとき、草の中へ寝ころんでキャー、キャーとわめき立てると、何のためらいもなく近づいて嗅ぎまわりました。寝たままで猟犬を抱きかかえたのはいうまでもありません。
犬は姿勢を低くして呼ぶと安心して来るものです。
